片頭痛の特効薬「トリプタン製剤」
〜5種類のお薬の個性と選び方〜
片頭痛の強い痛みに対して、最も中心的な役割を果たす急性期治療薬が「トリプタン製剤」です。
痛みの原因となっている「拡張した脳の血管」を元の太さに戻し、神経の炎症を鎮めることで、ズキズキとした辛い痛みを根本から抑え込みます。
現在、日本国内では保険適用で5種類のトリプタン製剤が処方可能です。
実はこの5種類、「どれも同じ」ではありません。
お薬が効き始めるスピード(Tmax)や、体から抜けていく時間(半減期)によって、それぞれ異なる「個性」を持っています。
ここでは、5つのトリプタンの特徴と、どのような場面で使いやすいのかを解説します。
トリプタン選びの鍵となる「Tmax」と「半減期」とは?
お薬の特徴を知る上で重要なのが「Tmax(最高血中濃度到達時間)」と「半減期(T1/2)」という2つの言葉です。
Tmax(最高血中濃度到達時間)
血液中のお薬の濃度がピークに達するまでの時間。
つまり「どれくらい早くお薬の最大の効果が発揮されるか(即効性)」の目安になります。
T1/2(半減期)
血液中のお薬の成分の体内濃度が最大値に達してのち、体内濃度が半分に減るまでの時間。
つまり「お薬の効き目がどれくらい長持ちするか(ぶり返しにくさ)」の目安になります。
当院では、患者さんの「痛みの立ち上がりの早さ」や「頭痛が長引くかどうか」に合わせて、最も相性の良いトリプタンを選択します。
国内で使える5種類のトリプタン製剤
1. スマトリプタン(商品名:イミグラン)
〜豊富な剤形を持つ、世界初のスタンダード〜
お薬のタイプ: 錠剤、点鼻液(鼻スプレー)、皮下注射
Tmax(効きのピーク): 錠剤 1.8時間 / 点鼻液 1.3時間 / 皮下注射 約12分
半減期(持続時間): 錠剤 2.2時間 / 点鼻液 1.9時間 / 皮下注射 1.9時間
特徴と最適なケース:
世界で最初に開発されたトリプタンです。飲み薬だけでなく、鼻スプレーや注射薬があるのが最大の特徴です。
「痛みが一気にピークに達するため、一刻も早く効かせたい」「吐き気が強くて飲み薬が飲めない、吐いてしまう」という方に、効果発現までが早い点鼻液や注射薬が適しています。
同薬の皮下注射はトリプタン製剤中で最も即効性が高く、片頭痛発作で苦しんでいる状態で使用すると驚くほど短時間で病状が改善することをよく経験します。
診療中に発作に悩まされている方にはクリニック内でよく使用します。
皮下注射製剤についてはご希望がある方には在宅自己注射製剤として処方することも可能です。
2. ゾルミトリプタン(商品名:ゾーミッグ)
〜効果が高いオールラウンダー〜
お薬のタイプ: 錠剤、RM錠(水なしで飲めるお薬)
Tmax(効きのピーク): 3時間
半減期(持続時間): 2.4〜2.9時間
特徴と最適なケース:
効果は高い一方で、締め付け感やふわふわ感が幾分出やすい特徴を持っています。比較的早く効き始め、しっかりと痛みを抑えるバランスの取れたお薬です。水なしで飲めるRM錠があり、幅広い片頭痛発作に使いやすいお薬です。
3. エレトリプタン(商品名:レルパックス)
〜マイルドな効果で締め付け感も少なめ〜
お薬のタイプ: 錠剤
Tmax(効きのピーク): 1時間
半減期(持続時間): 3.2時間
特徴と最適なケース:
マイルドな効果で、トリプタン特有の締め付け感などが少なめという特徴があります。また、半減期が約3.2〜3.9時間と長めのため、「薬を飲んでも、いつも少し痛みが残ってしまう」という方に適しています。しっかりと痛みを抑え込み、ぶり返しも防ぎやすいお薬です。
通常は1錠ずつの内服ですが、1回2錠で使用した場合は内服のトリプタン製剤の中で最も除痛効果が高いと報告されております。
4. リザトリプタン(商品名:マクサルト)
〜飲み薬の中でトップクラスの「即効性」〜
お薬のタイプ: 錠剤、RPD錠(水なしで飲めるお薬)
Tmax(効きのピーク): 1時間
半減期(持続時間): 1.6時間
特徴と最適なケース:
飲み薬のトリプタンの中で立ち上がりが最も早く、半減期も早いのが特徴です。「痛み出してからピークに達するまでが早い」「外出先ですぐに痛みを鎮めたい」という方に適しています。唾液でサッと溶けるRPD錠があるため、水がない場所でも服用しやすいお薬です。
片頭痛予防薬のインデラル(プロプラノロール)と併用すると、リザトリプタンの血中濃度が通常よりも上昇してしまうため併用できません。
5. ナラトリプタン(商品名:アマージ)
〜最も持続時間が長い。「ぶり返し」に強い〜
お薬のタイプ: 錠剤
Tmax(効きのピーク): 2.7時間
半減期(持続時間): 5時間
特徴と最適なケース:
中枢移行性が少なく、5種類のなかで最も持続時間が長いのが最大の特徴です。「いつも薬が切れると痛みがぶり返して、何日もダラダラ続く」「週末になると寝込んでしまう」「生理のたびに長引く片頭痛が起きる」といった方に非常に適しています。他のトリプタンは追加投与まで2時間以上あけますが、このお薬は4時間以上あける必要があります。
ナラトリプタンはTmaxが他の薬剤と比べると長いため、効果の発現が遅くなります。除痛効果を早く得たい場合にはロキソニンやイブプロフェンなどの他の片頭痛急性期薬と一緒に内服することをお勧めします。(他のトリプタン製剤との併用はできません)
適切な薬剤の判断基準

各薬剤のTmaxとT1/2の一覧を参考にしてください。
トリプタン製剤を内服してからご自身の痛みのピークがどのタイミングで訪れるのかを考えて、その薬剤のTmaxの時間と比較してください。
もしその薬剤のTmaxの時間よりも早く痛みのピークが訪れている場合は、さらにTmaxの短い薬剤へ薬剤を変更する。またはもう少し早いタイミングでその薬剤を内服する必要があります。
薬剤内服後に頭痛がいったん収まっていくが、しばらくして頭痛がぶり返してしまう場合は、その都度に同じ薬剤を追加内服する方法もよいですが、さらにT1/2の長い薬剤への変更を検討することもできます。
「お薬が効かない」と諦める前に
「トリプタンを処方されたけれど、あまり効かなかった」という経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、「1種類のトリプタンが効かなかったからといって、他のトリプタンも効かないとは限らない」のが、このお薬の特徴です。
Aというお薬が合わなくても、Bというお薬に変えたら劇的に効いた、ということは日常診療で頻繁に経験します。また、飲み薬から「点鼻液」に変更するだけで効き目が大きく変わることもあります。
たけもと脳神経外科では、患者さんの頭痛のパターン(痛みの強さ、ピークまでの時間、持続時間、吐き気の有無など)を詳しく伺い、5種類の中から「あなたに最適なトリプタン」をご提案します。
診断としては片頭痛で間違いがないのにトリプタン製剤の効果が乏しい方、副作用のために使用しにくい方もいらっしゃります。その場合にはトリプタン製剤以外の片頭痛急性期治療薬を提案させていただくことができます。また予防薬との併用療法がトリプタン製剤の効果を得るために必要な重度な片頭痛の患者な場合は適切に予防治療についても提案させていただきます。
頭痛でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。