
「これくらいで受診してよいのか」と迷う前に知っておきたいこと
同年代の知人が突然倒れた——そんな話を聞くと、ご自身やご家族のことが急に気がかりになるものです。ただ、ほんの短い違和感だけで受診したり救急要請したりしてよいのか、判断に迷う方は少なくありません。脳梗塞は、発症からの時間経過が治療の選択肢を左右する疾患とされています。だからこそ、迷う前に「何をもって緊急と考えるか」を家族で共有しておきたいところです。この記事では、広く用いられる合言葉「FAST」の確認手順、症状が一時的に消えるTIA(一過性脳虚血発作)の位置づけ、そして当院でのMRI検査の流れまでを順に整理します。
この記事の要点まとめ
- 顔・腕・言葉・時間で確認するFASTのサインと発症時刻の記録が判断の手がかりになります
- 症状が消えるTIAも脳梗塞の前兆とされ、当日中の相談が望まれます
- 生活習慣の管理とMRIによる血管・脳組織の確認が状態把握につながります
- 脳梗塞の初期症状を見逃さない「FAST」の基本チェック
- 一時的に消える前兆「一過性脳虚血発作(TIA)」と受診の判断基準
- 脳梗塞の3大分類と日常から意識したいリスク管理
- たけもと脳神経外科でのMRIを用いた精密検査と受診手順
脳梗塞の初期症状を見逃さない「FAST」の基本チェック

脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶え、その先の脳組織へ酸素と栄養が届きにくくなる状態を指します。詰まった血管が担う領域の働きが損なわれるため、症状は「片側に偏って」「突然」現れることが多いとされます。この特徴を、医療者でなくても数十秒で確認できるようにまとめた合言葉がFAST(Face・Arm・Speech・Time)で、脳卒中診療に関わる国内外の学会でも早期認知の指標として紹介されています1。
押さえたいのは、症状が「じわじわ」ではなく「ある瞬間から」始まったかどうか。ここに気づけるかが一つの分かれ道になります。
Face(顔):笑顔を作ったときに左右非対称になるか
まず顔を見ます。ご本人に「イー」と歯を見せるように笑ってもらい、口角が左右そろって上がるかを確認してください。片側だけ口角が下がる、笑ったときに顔の片側が動かない——こうした左右差があれば、顔面の麻痺が疑われることがあります。
食事中に片側から食べこぼす、飲み物が口の端からこぼれる、うがいの水が保てない。こうした変化は、ご本人より周囲が先に気づく場合もあります。「なんとなく表情が違う」という家族の違和感は、軽視せず確認材料にしてください。
Arm(腕):両腕を前に伸ばしたまま維持できるか
次は腕です。目を閉じ、手のひらを上に向けた状態で両腕をまっすぐ前へ突き出し、そのまま10秒ほど保ってもらいます。片方の腕だけが自然に下がってくる、あるいは手のひらが内側へ回ってしまう場合は、片側の筋力低下が疑われることがあります。
「箸を落とした」「ドアノブが回しにくい」「歩くと片足を引きずる」といった訴えも、同じ流れで捉えられるサインです。痛みを伴わないことが多く、そのぶん「疲れのせい」と片づけられやすい点には注意が必要です。
Speech(言葉):ろれつが回らない・言葉が出てこないか
言葉の障害には、発音がもつれる構音障害と、言いたい言葉が出てこない・相手の話が理解しにくい失語という異なるタイプがあります。「今日は天気がいいですね」など短い一文を復唱してもらうと、手がかりになります。
ご本人は話しているつもりでも、周囲には内容が伝わらないこともあります。会話がかみ合わない、名前がすぐ出てこないといった変化も含めて確認しましょう。
Time(時間):症状に気づいた発症時刻の記録と行動
FASTのTは、時刻の記録と行動の速さを意味します。脳梗塞では、点滴による血栓溶解療法(rt-PA)やカテーテルを用いた血栓回収といった治療の適応が、発症からの経過時間で区切られています1。つまり、「いつから症状が出たか」が分からないと、検討できる治療の幅が狭まる可能性があります。
異変に気づいたら、まず時計を見てください。そして「最後に普段どおりだった時刻」をメモやスマートフォンに残しておきます。起床時にすでに症状がある場合は、前夜に普段どおりだった時刻が起点です。FASTの項目が一つでも当てはまるなら、様子を見ずに行動へ移す。これが基本の考え方になります。
一時的に消える前兆「一過性脳虚血発作(TIA)」と受診の判断基準
脳梗塞の前兆として押さえておきたいのが、一過性脳虚血発作(TIA)です。脳の血管が一時的に詰まりかけ、血流が再開することで、症状が数分から数十分ほどで消えてしまう状態を指します。
「すぐ治まったから大丈夫」という誤解と本格的な発症リスク
TIAで悩ましいのは、症状が消えた時点でご本人が納得してしまいやすいところです。手のしびれが15分で戻った、片方の目に幕がかかったが今は見える——こうした経過だと、「疲れが出ただけ」と解釈されがちでしょう。
しかしTIAは、血管が詰まりやすい状態が背景にあることを示す信号と考えられており、その後の短い期間に脳梗塞を発症するリスクが高い状態として扱われます1。症状が消えたことは、原因が消えたことを意味するとは限りません。発症から時間が経っていない時期ほど注意が必要とされるため、「治まったから明日にしよう」ではなく、その日のうちに医療機関へ連絡する姿勢が望まれます。
救急車を呼ぶか医療機関へ行くかの具体的な見分け方
迷いやすいところなので、目安を整理しておきます。
- 今まさにFASTの症状がある:救急要請を検討する場面です。麻痺や言語障害、突然の強い頭痛、意識がもうろうとする、片目が急に見えにくい、立てないほどのめまいなどが該当します。
- 症状が短時間で消えたが、明らかに突然始まった:TIAの可能性を念頭に、当日中に脳神経外科などへ電話でご相談いただき、受診の可否を確認します。
- 数日前に一度だけ似た症状があった:すでに落ち着いていても、そのままにせず早めに外来でご相談ください。
連絡の際は、症状の内容と「最後に普段どおりだった時刻」を伝えると、その後の対応が進めやすくなります。大げさかどうかをご自身で判定する必要はありません。緊急性の判断は医療者側の役割です。
異変を感じた際にしてはいけないNG行動
次のような対応は、結果として時間を失うことにつながりかねません。
- 横になって様子を見る、そのまま眠る:眠っている間に症状が変化しても気づけず、発症時刻も曖昧になります。
- 自家用車で本人が運転して向かう:走行中に症状が強まる可能性があり、控えていただきたい対応です。同乗であっても、症状が強い場合は救急要請が基本になります。
- 自己判断で市販薬や手持ちの薬を追加する、血圧を急に下げようとする:脳の血流に影響しうるため、その場の判断で薬を増減することは避けてください。
- 意識がはっきりしない方に水や食べ物を与える:飲み込みの機能が落ちていることがあり、むせ込みにつながる場合があります。
迷ったときほど、記録を残して連絡する。この二つを家族の共通ルールにしておくと動きやすくなります。
脳梗塞の3大分類と日常から意識したいリスク管理
一口に脳梗塞といっても、詰まり方の成り立ちはいくつかに分かれます。分類を知っておくと、ご自身がどのリスクに近いのかを把握しやすくなり、日々の管理にも目的が生まれます。
脳の血管が詰まる原因別の3つのタイプ
- ラクナ梗塞:脳の深部を走る細い血管が詰まるタイプ。高血圧との関連が深く、病変が小さいため症状が軽く見えることもあります。
- アテローム血栓性脳梗塞:頸部や脳の比較的太い血管で動脈硬化が進み、内腔が狭くなったり血栓ができたりして詰まるタイプ。喫煙、脂質異常症、糖尿病などが背景になります。
- 心原性脳塞栓症:心房細動などの不整脈により心臓の中でできた血栓が流れ出し、脳の血管を塞ぐタイプ。太い血管が一気に詰まりやすく、症状が突然かつ強く現れる傾向があるとされます。
心房細動は自覚のないまま経過することもあります。健診での心電図所見や、脈の乱れを指摘された経験があれば、循環器の評価とあわせてご相談いただくと、把握できる材料が増えます1。
生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)のコントロール
脳の血管を傷めていく大きな要因として挙げられるのが、日々の血圧・血糖・脂質の乱れです。なかでも高血圧は、細い血管にも太い血管にも影響し、脳卒中全般のリスク因子として位置づけられています1。
健診で高血圧を指摘されている方は、家庭血圧を朝晩それぞれ同じ条件で測り、記録を持参してみてください。診察室での一度の数値より、日常の推移のほうが方針を考える材料になります。「数値を下げる」ことより「変動を含めて把握する」ことが管理の出発点です。当院では内科・外科も標榜しており、生活習慣病の発症や進行を抑えることを目的に、食事や運動を含めた健康管理を患者さまと一緒に考える診療を行っています。
脱水予防と塩分管理など家庭でできる予防習慣
家庭で取り組める工夫も、積み重ねれば血管をとりまく環境に働きかけます。
汗をかく季節や暖房の効いた冬の室内では、気づかないうちに体内の水分が減っていきます。就寝前と起床直後にコップ1杯の水を習慣にするだけでも、水分バランスを整えやすくなります。飲酒後は利尿が進むため、あわせて水分を摂る意識を持ちたいところです。
塩分については、日本人の摂取量が多くなりがちな汁物・漬物・麺類のスープに手を入れるのが現実的でしょう。汁を残す、だしや酸味・香辛料で味を補う、加工食品の栄養成分表示を見る癖をつける——この程度から始めても意味があります。加えて、禁煙と無理のない有酸素運動、睡眠時間の確保。派手さはありませんが、脳卒中予防の土台はここに集約されます。
たけもと脳神経外科でのMRIを用いた精密検査と受診手順

前兆かもしれない症状を感じたとき、あるいは健診で高血圧などを指摘されて気がかりを抱えているとき。実際に何を調べるのかが分かると、受診のハードルは下がります。
頭部MRI検査で確認できる脳組織と血管の状態
当院では、脳内および脊髄・脊椎を詳しく評価するためのMRIを導入しています。頭部MRIでは、脳の組織そのものの状態に加え、造影剤を使わずに血管の走行を描出する撮像法(MRA)によって、血管が細くなっていないか、詰まりかけている部位がないかを確認していきます。
とくに把握しておきたいのが、症状として現れていない小さな脳梗塞(無症候性脳梗塞、いわゆる「かくれ脳梗塞」)の有無です。自覚がないまま存在していることがあり、見つかった場合は今後のリスク管理を組み立てるうえで参考となる情報になります。あわせて、脳卒中等の危険性評価のための超音波診断装置を用い、頸部の血管の内側の厚みや血流の状態を調べることも可能です。動脈硬化がどの段階にあるのかを、複数の角度から整理していきます。
なお、MRIは強い磁場を使う検査ですので、心臓ペースメーカーや体内金属の有無について事前の確認が必要です。該当する可能性がある方は、ご予約の段階でお知らせください。
自分や家族の健康を守るための受診・相談の流れ
まず前提として、FASTに該当する症状が今ある場合は、外来予約ではなく救急要請が優先されます。当院がお役に立てるのは、症状が落ち着いている段階での評価、TIAが疑われる経過のご相談、そしてリスク因子をお持ちの方の予防を目的とした検査になります。
受診はweb予約またはお電話でのご予約から。当日は、いつ・どんな症状が・どのくらい続いたのかを時系列でお伝えいただけると、診察が進めやすくなります。ご家族が気づいた変化は、ご本人の記憶より具体的なこともありますので、可能であれば同伴いただくか、メモを託してください。問診と神経学的な診察を行い、必要と判断した場合にMRIなどの画像検査へ進みます。
当院では日本脳神経外科学会の脳神経外科専門医・指導医の資格を有する医師が診察にあたり、頭痛やめまい、手足の脱力といった症状について専門的な視点から評価いたします。また、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤や脳血管の閉塞・狭窄、脳梗塞などの早期発見を目的とした脳ドックもご用意しています。名古屋市天白区元植田の地で、脳卒中の予防と各疾患の早期発見に努めることが当院の基本姿勢です。気になる症状を一人で抱え込まず、まずはご相談ください。
よくある質問
Q1. 脳梗塞の主な原因は何ですか?
A. 単一の原因に絞れるものではありませんが、リスク因子として広く挙げられるのが高血圧です。血圧が高い状態が続くと、脳の細い血管も太い血管も動脈硬化が進みやすくなると考えられています。加えて、糖尿病、脂質異常症、喫煙、過度の飲酒、そして心房細動などの不整脈も関与するとされます。ご自身にどの因子が当てはまるかを整理することが、管理の第一歩になります。
Q2. 脳梗塞になる前兆はありますか?
A. すべての方に前兆が現れるわけではありませんが、一過性脳虚血発作(TIA)として、片側の手足のしびれや脱力、ろれつが回らない、片目が見えにくいといった症状が数分から数十分で消える形で現れることがあります。症状が治まっても、その日のうちに医療機関へご相談ください。
Q3. 脳梗塞の経過はどのようなものですか?
A. 経過は、詰まった血管の場所や範囲、発症からの時間、基礎疾患などによって大きく異なり、一律にお答えすることはできません。急性期には血栓溶解療法やカテーテルによる治療が検討され、その後はリハビリテーションを通じて日常生活の動作を高めていく流れが一般的とされています。個々の見通しについては、実際に診療を担当する医師にご確認ください。
Q4. 症状が軽いときでも救急車を呼んでよいのでしょうか?
A. FASTの項目に一つでも当てはまる症状が現在ある場合は、要請を検討してよい場面と考えられます。緊急性の判断は医療者側が行いますので、ご自身で重症度を見極めようとする必要はありません。連絡時に「最後に普段どおりだった時刻」をお伝えいただけると、その後の対応に役立ちます。
Q5. 症状がなくてもMRI検査を受ける意味はありますか?
A. 高血圧や糖尿病などを指摘されている方、ご家族に脳卒中の既往がある方では、自覚症状のない小さな梗塞や血管の狭まりが見つかることがあります。現状を把握したうえで生活管理や治療方針を組み立てるための情報として活用できますので、予防を目的としたご相談も承っています。
参考文献
1. 一般社団法人 日本神経学会(神経内科領域の診療ガイドライン・学術情報)https://www.neurology-jp.org/
平成9年4月 名古屋大学医学部医学科 入学
平成15年4月 社会保険中京病院(現 JCHO中京病院) 就職
平成20年4月 名古屋大学医学部大学院 入学
平成23年4月 社会保険中京病院(現 JCHO中京病院) 就職
令和5年11月 たけもと脳神経外科 開院
臨床研修指導医
日本脊髄外科学会認定医
脊椎脊髄外科専門医
日本脳神経外科学会
日本脳卒中学会
日本脳卒中の外科学会
日本頭痛学会
日本脊髄外科学会
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